大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)853号 判決
【事実】
(一) 当事者の申立
(1) 控訴人
「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求める。
(2) 被控訴人
主文と同旨の判決を求める。
(二) 当事者の主張
(1) 被控訴人の請求原因事実
(イ) 被控訴人は昭和五四年一一月二一日に控訴人に対し、原判決添付物件の表示記載の機械(以下、本件機械という)を「代金は七九〇〇万円とし、契約締結日に一〇〇〇万円・検収月の末日に六九〇〇万円を各支払う、本件機械の所有権は、代金が完済されるまでは被控訴人に属するものとする、控訴人が代金の支払を一回でも怠つたとき又は控訴人の財産状態が悪化して代金の支払に支障をきたすおそれが生じたときは、被控訴人において催告をすることなく契約を解除することができる、右により契約が解除されたときは、控訴人は被控訴人に対し直ちに本件機械を返還するものとし、控訴人が既に支払つた代金は、被控訴人の損害の支払に充当することにして、控訴人はその返還請求権を失うものとする」旨の約定で売渡し、昭和五五年七月中にその引渡をなし、同年八月末頃にその検収を終えた。
(ロ) ところが、その後、控訴人の代金支払が約定のとおりにはなされず、昭和五六年一二月一八日現在における未払残代金は三四〇〇万円であつたが、同日控訴人は被控訴人に対し「右未払残代金三四〇〇万円を昭和五六年一二月から完済まで毎月末日限り一〇〇万円宛に日歩二銭三厘三毛の利息を加えて分割支払う、右の分割弁済を一回でも怠つたときは、被控訴人において直ちに本件機械を回収しても異存はない」旨を約定した。
(ハ) ところで、控訴人は被控訴人に対し昭和五七年八月まで右約定所定の分割弁済をしたが、同年九月一〇日にその振出に係る手形が不渡になつた。そこで、被控訴人は、従来における再三にわたる控訴人に対する支払猶予や、右手形不渡の事実などからして、同年九月以降における右約定による分割弁済はなされ得ないものと判断し、同年九月一一日付書面で控訴人に対し、本件売買契約を解除する旨の意思表示をしたところ、該書面はその頃控訴人に到達した(なお、控訴人においては、その後、右約定による分割弁済をしなかつた)。
(ニ) 本件機械の昭和五七年一〇月一日現在における使用料は、一か月八〇万円である。
(ホ) よつて、被控訴人は控訴人に対し、その所有権に基づき、本件機械の引渡と、昭和五七年一〇月一日から右引渡済まで一か月八〇万円の割合による本件機械の使用料相当の損害金の支払とを求める。
(2) 控訴人の答弁及び抗弁
(イ) 被控訴人主張の右事実は、その内、(イ)の事実中、本件機械の所有権は代金が完済されるまで被控訴人に属する旨の約定があつたとする点を除くその余の事実、(ロ)及び(ハ)の事実は認めるが、その余は争う。本件売買契約においては、代金が完済されるまで本件機械の所有権を被控訴人に留保する旨の約定はなかつたのであり、控訴人は、本件売買契約の締結により、本件機械の所有権を取得した。そして、控訴人は昭和五七年八月二六日に昭和染工株式会社に対し、本件機械を売却して、引渡したから、その所有権を失つた。被控訴人の本訴請求は失当である。
(ロ) なお、若し仮に被控訴人の機械返還請求が認められるとしても、控訴人は被控訴人から本件機械を代金七九〇〇万円〔その内訳は原判決添付物件の表示一の機械(以下、(A)機械という)が二四二〇万円、同二の機械(以下、(B)機械という)が五四八〇万円である〕で買受けたところ、その内金約五四〇〇万円を支払つた。そうすると、(B)機械の代金は完済されたことになるから、控訴人において被控訴人に返還しなければならないのは、(A)機械のみであるというべきである。
(ハ) なお、控訴人は既に代金の三分の二以上を支払つているから、その余の代金を支払わないからといつて、被控訴人において契約を解除し、本件機械を回収した上、何らの清算もせずして、その既払代金を被控訴人の損害の支払に充当することができるとしている本件売買契約の約定は、控訴人にとつて一方的に不利益なものであつて、該約定は無効である。
(3) 被控訴人の答弁
控訴人の右(ロ)及び(ハ)の各主張は争う。被控訴人は控訴人に対し、本件機械六台を一括して売渡したのであり、個々に売渡したのではないから、右(ロ)の主張は失当である。なお、被控訴人は昭和五七年九月一三日に控訴人を相手方として本件機械に関し、その処分及び占有の移転を禁止する旨を内容とする仮処分を執行済である。
【理由】
(一) 被控訴人主張の請求原因事実の内、(イ)の事実中、本件機械の所有権は代金が完済されるまで被控訴人に属する旨の約定があつたとする点を除くその余の事実と、(ロ)及び(ハ)の事実とは、当事者間に争いがない。そして、<証拠>によれば、本件売買契約においては、本件機械の所有権は、控訴人が代金を完済するまでの間は被控訴人に留保し、代金が完済されたときに控訴人に移転する旨の約定がなされていたこと及び本件機械の昭和五七年一〇月一日現在における使用料は、少なくとも一か月八〇万円であつたことを認めることができる。<反証排斥略>。そうすると、特別な事情のない限り、本件売買契約は昭和五七年九月中に解除されたのであり、被控訴人の本訴請求は理由がある。
(二) 控訴人は、「本件機械は昭和五七年八月二六日に控訴人から昭和染工株式会社に売却されて、引渡されたから、控訴人においては現在本件機械の所有権を有しない」旨を主張する。しかしながら、右の売却・引渡がなされたかの如く供述する当審における控訴人本人尋問の結果は、たやすく措信し難く、他に右の売却・引渡を認めるに足る資料はない。かえつて、<証拠>によれば、被控訴人は昭和五七年九月一三日に控訴人を相手方として、控訴人方工場において控訴人が占有・使用していた本件機械につき、「控訴人の占有を解いて、執行官に保管を命ずる、控訴人は、本件機械につき、第三者に譲渡・賃貸その他の処分をしたり、占有の移転又は占有名義の変更をしてはならない」旨を内容とする仮処分を執行したが、その際、控訴人においては、本件機械を他に売却済である旨を絶えて述べなかつたことを認めることができるのであり、控訴人が昭和五七年八月二六日に昭和染工株式会社に対し本件機械を売却したことはないことが窺知される。
(三) 次に、控訴人は事実欄(二)の(2)の(ロ)記載のとおり主張して争うので、その点について考えてみるに、<証拠>によれば、本件機械の売買代金は、単価を(A)機械は一二一〇万円、(B)機械は一三七〇万円として、合計七九〇〇万円と定められたが、本件売買契約は、本件機械六台を一括して目的物件とし、締結されたものであつて、その一台宛につき個別的に売買したものではないことを認めることができる<反証排斥略>。そうすると、前記の本件売買契約の約定に照らし、その既払代金に相当する価格を有する機械につき、控訴人において所有権を取得したり、被控訴人に返還する必要がないなどとは、到定いうことができない。控訴人の右主張は失当である。
(四) 更に、控訴人は事実欄(二)の(2)の(ハ)記載のとおり主張して争うので、その点について考えてみるに、<証拠>によると、被控訴人は昭和五四年一一月二一日に控訴人との間において本件機械の売買契約を締結した後、昭和五五年五月中にサウラー社(スイス国所在)から本件機械を買受け、同年七月中に控訴人に引渡したこと、被控訴人は控訴人に対し、控訴人が本件機械の売買代金を完済するまで、控訴人において無償で本件機械を使用することを承認したこと及び本件機械の昭和五五年七月当時の使用料は一か月約一五八万円であり、昭和五七年一〇月一日現在における価格は、約四二〇〇万円であつたことを認めることができる。そうすると、控訴人が本件機械を受領した昭和五五年五月中から本件売買契約が解除された昭和五七年九月中までの間における本件機械の使用料相当の金員も多額になるのであり、その間における本件機械の損耗額も約三七〇〇万円に達するわけであるところ、本件認定の諸事情からすれば、控訴人の責に帰すべき事由により契約が解除されたときは、控訴人において被控訴人に本件機械を返還すべく、その既払代金は被控訴人が被つた損害の支払に充当することにして、控訴人に返還しないものとする旨の本件売買契約における約定は、被控訴人の損害の発生・拡大を可及的に防止するためのものとして、控訴人においても同意したものであるから、これを無効としなければならないほど控訴人にのみ一方的に不利益なものとはいい難い。この点に関する控訴人の主張は失当である。
(五) そうすると、控訴人に対し本件機械の引渡と昭和五七年一〇月一日から右引渡済まで一か月八〇万円の割合による本件機械の使用料相当の損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は理由があり、これと結論を同じくする原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて、民訴法三八四条により、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき、同法九五条本文・八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(小林定人 坂上弘 小林茂雄)